ジャパンクリエイト通信

医薬品市場の動向とビジネスモデル

医薬品業界の構造

医薬品・バイオ業界では、医薬品の生産において、研究開発による創薬と製品の製造を担う企業を取り扱います。医薬品は、医療用医薬品とOTCOver The Counter)医薬品の2つに大別され、消費者への販売については病院・調剤薬局といった医療機関が医療用薬品の販売を、ドラッグストアなどの小売店がOTC医薬品の販売を主に担う形で分かれています。

 

医療用医薬品…病院やクリニックで医師の診断を受けた上で処方される薬。

OTC医薬品…薬局やドラッグストアで購入できる薬。ちなみに、OTC医薬品は、さらに以下のように分類されます。

・要指導医薬品…薬剤師が直接手に取れない場所で販売され、対面で購入者の情報を聞いて説明を行う必要がある薬。

 

 

・一般用医薬品…第1類~第3類までの3つに分かれ、リスクが低い順に薬剤師や登録販売者が販売できる薬。

 

このような流通形態の違いや商品特性の違いから、参入企業は主に取り扱う製品の種類によって、武田薬品工業のような医療用医薬品メーカーと大正製薬ホールディングスのようなOTC医薬品メーカーに分けることができます。

 

主な医療用医薬品メーカー

・武田薬品工業、大塚HD、アステラ製薬、田辺三菱製薬など

 

主なOTC医薬品メーカー

・大正製薬、ロート製薬、ライオン、エスエス製薬など

 

医薬品業界の特徴

使用上のリスク

医薬品は、特殊な化合物を利用して身体の機能に直接働きかけるものであるため、高い有効性の半面、健康を大きく損なうリスクもあります。そのため、開発から販売までの各段階で規制が存在します。そして、商品は使用上の注意のリスクの差により、大きく医療用医薬品とOTCOver The Counter)医薬品の2つに区分されます。

 

特許、再審査期間による保護

医療用医薬品の中でも、新規に開発された先発医薬品は特にリスクが高いのです。そのため、先発医薬品には特許による保護に加え、発売から6~10年間の再審査期間が設けられます。再審査期間は、開発時の臨床試験だけでは把握しきれなかった、医薬品の有効性や健康上のリスクなどを検証するための期間であり、期間が終了するまでは開発した製薬会社以外の企業では同等の医薬品を発売することは認められていません。

 

販売網の拡大

OTC医薬品は、Over The Counterという名の通り、購入・使用に医師による処方などが不要であり、薬局やドラッグストアでの購入が可能な医薬品です。

 OTC医薬品はさらに、要指導医薬品と一般用医薬品に分けられる。要指導医薬品は、スイッチOTC医薬品(元は医療用医薬品であったが、十分な安全性が確認できたとして処方なしで購入できるようになったもの)や劇薬などを含み、購入時は薬剤師による対面の指導が必要で通信販売は許可されていません。一方、一般用医薬品は消費者の自己判断による使用が可能と判断されたもので、通信販売もおこなわれています。一般用医薬品は、その効用とリスクの大きさにより、さらに3段階に分けられており、流通時の制約も異なります。

 

医薬品業界のトレンド

「2010年問題」の影響

医薬品の国内生産額は、2018年時点で69,077億円の市場となっており、用途区分別では医薬品のうち医療用医薬品が6兆円以上であり約9割を占めます。このように医薬品市場の大半は医療用医薬品が占めているのが現状であるが、生産額の推移を見ると、OTC医薬品のシェアは高まりつつあります。OTC医薬品のシェア拡大は、主に以下の2つの要因によるものです。

 

まず挙げられるのが、政策による後押しである。2007年の新医薬品産業ビジョンによるスイッチOTC医薬品の開発促進、2009年の「登録販売者」によるOTC医薬品の販売許可、2013年の薬事法改正による第1類・第2類医薬品のネット通信販売解禁により、OTC医薬品の販売が推進されるようになります。これにより、2000年代前半には縮小を続けていたOTC医薬品市場は、2007年を底に拡大傾向に移っています。

 もう一方の要因には、定期的なリニューアルによる新製品の投入です。目薬や、鎮痛剤など高付加価値品が今後も成長が期待されており、コロナの影響によるインバウンド需要は減少しているが、入国制限の緩和もあり、今後の動向が注目されています。

 

国内市場の状況

国内の後発医薬品市場においては、日医工、沢井製薬、東和薬品の3社が高いシェアを持っています。日医工は、品目数拡大と流通体制強化し国内トップ企業となりました。品目数の拡大は、2010年フランスSanofiと提携し日本初のオーライズドジェネリック(先発医薬品メーカーからの特許権許諾により先発医薬品と全く同じ原料・製造方法で製造したジェネリック医薬品)の販売や、2018年エルメッドエーザイの買収などで事業を拡大されました。しかし、2021年に検査の未実施や国が承認した工程とは異なる製造を行うなどの不正が発覚し、32日間の業務停止命令を受けました。取引先の撤退などで業績が悪化し、20225月に私的整理の一つである事業再生ADRを申請し同年12月に手続きが成立しました。20233月にジェイ・エス・ディーの子会社となっています。

 

沢井製薬は、2017年米国の後発薬大手Upsher-Smith Laboratories, LLCを買収し海外での販売を強化しました。2021年には製造工程の不正が発覚した小林化工の工場設備と従業員の引継ぎ、国内の生産体制と販売網の強化を図っています。コロナ禍による影響で医療機関の受信控えなどにより2020年度は若干の減収となったが、2021年度には回復しています。

 

 東和薬品は、2020年にスペイン・ペンサ社を買収し欧米での後発薬市場の販路を獲得し大幅増収となりました。2022念にはサプリメントなど健康食品の開発や受託生産を手がける三生医薬を477億円で買収し、三生医薬が持つカプセルの技術の活用や新たな健康関連事業への展開を図り増収が続いている。

 

後発医薬品は市場の成長

期待されている一方で、薬価の引き下げや開発コストの負担などから収益性は低く、今後の市場同行も不透明な部分が多く、大手企業は海外企業の買収や提携を積極化される一方で、日医工の事業再生ADR新生や小林化工の工場設備売却土により業界の勢力図が変化していくものとみられています。

 

医薬品業念の展望

更なる技術の革新

市場環境としては、医薬品全体としての需要は高まる一方で、政府による医療費抑制政策が市場の成長を制限する状況が続きます。政策としては、後発医薬品の普及を促進しながらも、先発医薬品の開発を停滞させないよう、特許・再審査期間の間は先発医薬品の薬価を引き下げず、期間後に後発医薬品へのシフトを促進するという方向性に向かうと考えられます。また、2017年より導入されるセルフメディケーション税制により、OTC医薬品による医療用医薬品の市場の代替も進みます。

 また、医薬品・バイオ業界には技術革新のスパンが短いという特徴がある。既に開発が進んでいるバイオ医薬品に加え、生体内で産生されるホルモンなどの物質を用いたペプチド医薬、他の生物に由来する特殊な物質を応用した医薬、遺伝子の発現に作用して病気の根本から治療する核酸医薬など、様々な技術が、今後新たに発見・実現されると予想されます。

 

海外市場への進出

医薬品メーカーが継続的な成長を続けるためには、新興国をはじめとする海外の成長市場への進出、そして選択と集中による経営資源の有効活用が求められます。

 

まず、国内市場の成長が今後停滞すると考えられることから、海外市場への進出は医薬品メーカーにとって必須である。特に、中国や東南アジアといった新興国については、今後さらに経済成長と高齢化が進むことから、医薬品の需要は伸びていくと期待されます。

 

 

 ただし、成長が見込まれる新興国の市場に関しては、海外のメガファーマも進出を進めると考えられることから、競争環境は激しくなると想定されます。よって、日本企業にとっては、各国での競争力をつけるために現地の政府機関・医療機関などと十分な関係を構築し、各社が得意とする専門領域に絞って集中的なブランディングと営業活動を進めるなど、競争を前提とした適切な海外戦略を策定することが必要になります。

 

 国内企業は、海外のメガファーマと比べ経営規模が小さく、今後成長が見込まれるバイオ医薬品における技術力はそれほど高くないというのが現状です。このような状況下で、高い技術力をつけ、研究開発への十分な投資を維持するには、事業領域の選択と集中が必要となります。近年、非中核とした事業・分野から撤退して注力分野に集中する取り組みは国内でも進んでいます。しかし、今後は分野の集中に加え、研究・試験・製造・販売といった機能単位での選択と集中、そして企業間での分担・連携が進むと考えられます。

 

 米国ではベンチャー企業の果たす役割が大きく、臨床試験段階までをベンチャー企業が進め、メーカーがその後の製造を担うといった分担がされる場合も多いです。しかし、日本では、ベンチャー企業にとって医薬品の開発をおこなうための資金や人材を集められる環境が米国ほど充実しておらず、米国と同様の分担構造を構築することは困難です。今後は、難易度が高く経営資源も必要になる研究開発機能は大手の医薬品メーカーが担い、製造・販売機能に関しては受託業者への外部化・複数企業の合弁会社による共同化を検討するなど、日本の状況に合わせた適切な役割分担の仕組みが求められることになるでしょう。

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